作・演出=中津留章仁
9・10月 紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA
中津留章仁作・演出の民藝3作目です。高度経済成長を経て利益優先に傾く経営者家族を描いた『篦棒』、町の洋食屋を営む家族と技能実習生の交流から共生の道を探る『異邦人』、いずれも現代日本の抱える問題と直面し今後に向けて葛藤する人びとを家族という視点から創作してきました。
今作では跡取りのない米農家を舞台に、便利さや効率が優先されるなかで失われつつある「人間の幸福」とは何かを問いかけます。
日本の人口減少を背景に、都市への人口流出や少子高齢化により歯止めの効かない地方の過疎化は深刻なものです。都市部も地方も問題を抱え、効率を高めるコンパクトシティ政策や多拠点居住の推進といった試みは効果を生むでしょうか。
祖先から受け継いだ土壌と自然を守り、地域とのつながりの中で生きてきたかつての生活様式が教えてくれる真の豊かさを見つめ直す新作です。
過疎化が進み、だいぶ寂れたとある町のはずれ。米農家の西嶋寛治には一男一女があり、孫にも恵まれた。しかし、妻を亡くして以降、いまは独りこの土地で暮らしている。東京で暮らす長男夫婦は80代の父親を心配して施設への入居を勧めているが、彼は頑なに田んぼを手放そうとしない。
この土地の祭りでは昔から伝わる棒術や獅子舞を寺と神社に奉納する慣習があるが、西嶋は近頃足繁く寺を訪れるようになった。
地元の幼馴染・川村良江はそんな西嶋が何を頑なに守り、周りに何を伝えようとしてきたのかを探るなかで、彼の真意に近づいていくのだった……。