劇団民藝

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2019年上演作品

新・正午浅草荷風小伝

作・演出=吉永仁郎 演出補=中島裕一郎

4月 紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA

beyond2020プログラム

永井荷風はよく歩いた人である。このひとり歩きはその日記(断腸亭日乗)にきちんと書きとめられている。38歳から始めて42年間一日も欠かさずこの日記を書き続けたのだが、大詰に近い昭和32年(荷風77歳)の夏頃から「正午浅草」の文字が現われ、時には一日がそれ一行になり、遂には連日となる。
 荷風といえば花街の女たちの生態を多く書いた作家として知られているが、人目に触れないこの日記の中に本音を吐き出している。例えば、明治以後、西欧の外形をなぞった性急な近代化への批判、戦前戦中の横暴な軍人政府への非難、虚名を追う同業の文学者たちへの皮肉、移り変わる世相に踊らされる民衆への失望。そして戦後、4回の空襲罹災のショックで創作力を失ったこの人はただ日記を書くためにペンを持つ。
 この舞台は日記に「正午浅草」が出始めた昭和32年の秋の一日、千葉県市川の自宅、自炊の昼食をつくるところから始まり、途中彼の生涯のさまざまな断片が挟まれる。政府の高官だった厳父との葛藤、場末の私娼窟の娼婦との交情、等々。そして、この長大な日記の最後の一行の日まで荷風の姿を追っていく。
 ずっと前、すでに亡くなった山田吾一さんのためにひとり芝居『正午浅草』を書いた。同じ人物を扱った今回、この題名へのこだわりが捨てきれず、頭に「新」をかぶせた次第である。(作者記す)

主な出演